これまでの経験

私の原点~呼びかけても座らない子~

私の教師としての原点は初任校として赴任した特別支援学校でした。そこで3年間を過ごしたのです。

6年生のA君は朝の会の始まりに呼びかけても座れませんでした。彼は、「バッスー(バス)」「ハイ」「ヤー(イヤ)」「おはよ」「パン」などわずかな単語ぐらいしか話しません。

そんなA君は、登校をするとすぐに窓際へ行き、通学用のバスを見ています。朝の会が終わる頃、バスが車庫に戻ります。朝の会の時間になっても、バスが車庫へ行くまで席には座りません。そこで無理に座らせようとすると、パニックを起こします。

そこで、どうしたらA君の心を動かせるか考えました。まず、指導するという前に、A君に寄り添うことから始めました。朝の会の始まる前は、A君と一緒にバスを見ていようと思ったのです。 そして、バスを運転するようにして、「バッスー、バッスー」「ブーン、ブーン」などと一緒に遊んだり、「バスはカッコイイね」とバスの良さを話しかけたりしました。朝の会の時間になると声だけをかけ、「ヤー」というと無理強いはせず、「じゃあ、先にやっているね。バスがいなくなったらおいでね。」と話しました。すると、2週間ぐらいたった頃から徐々にバスを見る時間を早め、1ヶ月後には、「A君、朝の会始めるよ~!」と声をかけると、バスが有無にとらわれずにすぐに座れるようになりました。

「やりたくない」という思いには理由があること。どんなに小さくても、重い障害があっても、1人ひとりの「思い」を尊重し、「やりたくない思い」をくみ取る大切さを、A君から学びました。

学級崩壊

私は、20代から学級崩壊状態のクラスを持たせてもらうことが多かったです。

暴言暴力、万引き、かつ上げ、シンナー、喫煙、自転車やバイクを盗む、バイクで登校(小6)朝まで帰らない…いろいろありました。6年男の子が年上の中学校の子からお金を巻き上げ、近隣の数校の中学校へ、謝罪にまわったこともあります。しかし、どんなことをしたとしても、思いをくみながらも未来に向かう心の戦いをしていくことで、必ず前向きに変わり、笑顔のステキな優しい姿を見せてくれるようになりました。

学年全体が落ち着かない状態になっていた高学年の子どもたちにも出会いました。前の年は、担任が授業していても子ども達の机の上を歩いたり、教室や校舎から出たりする姿も少なくなかったようです。担任以外の先生が見守っていることもあったように聞きました。

始業式の日、私は、この子達に、「あなたたちを全力で愛します。」と話し、彼らの思いを受け止めようとしました。どんな思いがあるのか、子どもを取り巻く環境も含めて理解をすることから始めたのです。どんなことであっても共感し、そのうえでなぜこれがいけないことなのか、今これをなぜすべきなのかなどについて、個々に描いた自分の未来に結びつけて考えさせました。授業では彼らの集中力が短いので、わかることを重視し、楽しく子ども達の興味関心を高め、気持ちを引きつけるような授業を心がけました。

そして、子ども達みんなが大きく変容したのです。
全員が、優しく温かい仲間を思い合えるステキな子ども達でした。
この学年の修了式でもらった手紙です。

ほくと先生があったのは、4月でした。そこでぼくは、ものすごくあばれてました。だけど、先生は、たちむかいました。足をけられても、ぼうげんゆわれても、いろいろなことにたちむかい、ぼくたちとたたかいました。そして、ぼくたちをかえてくれました。この1年かん、学年ぜんいんがかわりました。
ここまでこれたのは、ラブズファイブ*のおかげです。
この1年かん、ありがとうございました。

*ラブズファイブ・・・学年のチーム名「全員の子どもを、学年全員で愛する5年生の先生チーム」荒れている学年。1クラスが変わっても意味がない。学年全員で変わる!鳥飼の学年経営の方針。

私の教員生活の中でたくさんの子どもたちと出会い、悪い子は一人もいませんでした。全員がそれぞれの輝くものをもったすてきな子どもたちでした。たとえ、出会ったときは反抗的な態度をとる子ども達も、「このままではいけない」ということに気づいています。 そこに気づいて愛情をもって一緒に本気で向き合うことで、一人ひとりの望む歩み方ができるようになり、一緒に喜び合えることを、出会ったすべての子ども達から学びました。

保護者学年主任として心がけたこと

学年主任として、学年同一歩調、問題の共有を大事にしました。 放課後は、子ども達のよかったことや問題行動、悩みなどを学年で話す機会を必ず設けました。時間に追われる仕事も多かったのですが、子ども達のことは、作業しながら、歩きながらなど必ず話しました。また、私自身も主任として、クラス数に関係なく、学年全員の子ども達の様子をよく見ました。言動や行動が気になる子がいると、担任に話を聞きながら一緒に考えました。そうすることで、問題が見えてきて、担任と一緒に対応しました。

保護者との関わり

 保護者の方々のご意見には、耳の痛いこともあります。しかし、聞いていくと、文句を言いに来たのではなく、子どものことで悩み、不安で苦しい気持ちでいっぱいなことがわかります。ですから、

1.保護者の気持ちに寄り添うこと
2.一緒に未来を描くこと
3.保護者の心配を吹き飛ばすような建設的な指導方法を提案すること

先の学年にも、この思いと対応の仕方を共有しました。学年どのクラスの保護者からのご意見にも一緒に対応しました。

担任もその子の幸せを願う気持ちは変わりません。普段から子どもたちのことを話していたので、担任が子どものことをどれだけ考えているかをお伝えすることができます。そして心と心をつなぎながら、話し合いました。両者の思いを繋げることで、同じ土俵で考えたいという気持ちになります。保護者の方も帰る頃には、担任と一緒に明るい未来を描けるようになりました。

同学年の先生から、「どんなにきつい顔で来られた保護者も、先生と話すと、みんな笑顔になっていくから不思議です。」と言ってもらえたこともあります。子どもに関わる大人が一枚岩となれた時、保護者には安心感が生まれてくるのだと思います。

保護者の話の中には、子どもを指導する上でのヒントがいっぱい詰まっています。たくさん聞いて、保護者や教師がその子へ描く目標をすり合わせ「同じ目標」を持つことで、子どもがとても大きく成長できることを、保護者たちや子どもたちから学びました。